(一宮市せんいに伝わる)
あの頃は、来る日も来る日も糸を紡(つむ)ぎ、はたを織りながら、仲間が 祭神となって降りて行った下界を眺めていました。 2千年ほど前のことに なるのでしょうか。一人の若者が、太陽にキラキラ光る飾り物を髪につけて、 立っているのが見えました。神の国では見たこともない光を放っていて、どう してもほしくなりました。 あの光は、美しい私の髪に似合うはずだと思ったのです。私はとびっきり 立派な着物を着て、出雲の国の一番高い山に降り立ちました。 それから 着物をなびかせて、二度舞い、三度舞いすると、たもとから涌き上がる風が くるくる舞って、地上へ届いていきました。 「さあ、あの髪飾りを天に舞いあげておいで。」 いつまでたっても髪飾りが届かないものですから、ひょいと踊りを止めて 見ますと、髪飾りは元のまま若者の髪に光っていました。 腹が立ちました。 私の力が通用しないなんて…。 「あなたはいったい何者なのです」 「我こそは11代天皇の垂仁(すいにん)である。皇子(おうじ)が病に伏して いるので、お祈りしているのだ。」 「その髪飾りを私にくれるというのなら、皇子の病を治してあげましょうか。」 「やはり神に通じたのか。これは代々この地に伝わる、ミズラというもの。 この尾張の国へおこし頂ければさしあげましょう。」 私はその言葉に胸を躍らせて、降りてきました。それからずっと、私はこの 神社に住みついて、この辺りをミズラと呼ばせるようにしたのですが、いつしか なまって、「あずら」になってしまいました。 私? 私は阿豆良(あずら)神社の 祭神、アマノミカツヒメです。 |